会長あいさつ
一般社団法人日本消化器癌発生学会
第29回総会 会長 落合 淳志
(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター長)
伝統ある第29回日本消化器癌発生学会総会の会長を務めさせていただきます国立がん研究センターの落合淳志です。
近年の分子生物学的解析より、がんの発生・進展過程が多段階的な遺伝子変異、エピジェネティク異常、炎症や免疫状態の変化などにより引き起こされていることが示され、様々な分子標的剤や免疫チェックポイント阻害剤の出現により一定の効果を確認できてきました。一方、薬剤不対応症例の存在や薬剤抵抗性など新たに解決すべき問題が出てきています。特に近年の研究では、がん組織構築の複雑性や細胞内および細胞間の分子機構の複雑性が、がん発生・進展だけではなく、薬剤抵抗性などの制御に重要な役割を果たしていることが示されてきています。具体的にがん組織の複雑性として、がん組織はがん細胞と間質細胞、血管、免疫担当細胞などとこれら細胞が産生するコラーゲンなどマトリックスにより複数の細胞により構成されること、がん細胞自身が遺伝子レベルにおいても単一な集団ではなく、細胞生物学的にもがん幹細胞と非がん幹細胞として異なった細胞集団から構成されていることが明らかになっています。また、がん細胞を取り巻く微小環境も不均一であり、そこに関わる分子機構も不均一であることが明らかになってきました。
このような背景を鑑み、第29回日本消化器癌発生学会総会のテーマを「複雑な組織と分子を解く」とさせていただき、これまでの消化器癌の発生に関する形態病理学的な複雑性に加え、高感度・大量解析技術の革新を基にした遺伝子情報、遺伝子発現情報、蛋白そしてそれぞれのシグナル伝達などの分子情報とその複雑性について考えてみたいと思います。これまで消化器癌の発生・進展とその治療と治療抵抗性などについて、複雑に絡み合ったがん細胞の発生、増殖、生存の分子機構の一端が明らかになることを期待します。
さて、第29回日本消化器癌発生学会総会は2018年11月16日・17日に東京の都市センターホテルで行います。2020年の東京オリンピックに向けて東京も大きく変わりつつありますが、日本各地から東京の地にお集まりいただき、本学会総会において、先生方に複雑ながん組織とその分子機構を理解していただき、がんの理解を深めるとともに、新しい治療への礎となることを祈念します。どうぞお誘いあわせの上、第29回日本消化器癌発生学会総会にご参集いただきますようお願い申し上げます。
平成29年10月吉日